介護福祉施設におけるBCP(事業継続計画)対応のポイント
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業種
介護福祉施設
- 種別 レポート
介護福祉施設におけるBCP対応のポイント
株式会社日本経営 / 土谷 亨
令和3年度の介護報酬改定で、全ての介護サービス事業者を対象にBCPの策定、研修の実施、訓練の実施が義務化されました。
厚生労働省(NTTデータ経営研究所受託)「感染症対策や業務継続に向けた 事業者の取組等に係る調査研究事業(2022年3月)」によると、感染症BCPを策定済みの介護事業所は現時点で29.1%に、自然災害BCPを策定済みの事業所は27.2%にとどまっています。
これらから、約70%の介護事業所では策定されていないことがわかり、多くの事業所が対応に迫られています。
※ 中小企業BCP策定運用指針よりhttps://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_c/bcpgl_01_1.html
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介護事業所のBCPとは
BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。
特に中小規模の法人は、緊急事態が発生した際、場合によっては廃業に追い込まれるおそれもあります。
また、事業を縮小し従業員を解雇しなければならない状況も考えられます。
緊急時に倒産や事業縮小に陥らないためには、平常時からBCPを周到に準備しておき、緊急時に事業の継続・早期復旧を図ることが重要となります。
また、BCPは単なる計画ではなく、利用者や家族の信用を維持し、地域社会にも安心をもたらすもので、法人としての価値の維持・向上につながるのです。
介護事業所BCP(事業継続計画)の全体像
BCM(事業継続マネジメント)のうち、「計画の策定」に該当するものをBCP(事業継続計画)といいます。
- 基本方針の策定
- 分析・検討(事業影響度分析、リスクの分析、評価)
- 事業継続戦略・対策の検討と決定
- 計画の策定
- 事前対策および教育・訓練の実施
- 見直し・改善
BCPは一度作ったから終わりということはなく、運用しながら見直し改善をはかります。
また、教育訓練なども広い意味でBCPと捉えることは可能です。
対応が義務化
対応が義務化されること
感染症や災害が発生した場合であっても、必要な介護サービスが継続的に提供できる体制を構築する観点から、全ての介護サービス事業者を対象に業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等が義務付けられます。(その際、3年の経過措置期間あり)
法人に適した良いBCPを作るためには、情報の精査やプロジェクトメンバーとのディスカッションなどが必要となります。
そういったプロセスがあることを踏まえると、出来るだけ早くからBCPの作成に取り掛かることが求められます。
介護BCPを策定する上でのポイント
BCP策定・運用にあたって重要な取組を整理すると以下のようになります。
各担当者をあらかじめ決めておくこと
誰が・いつ・何をするか、項目ごとに整理して、担当者を決めます
連絡先をあらかじめ整理しておくこと
ご利用者とそのご家族はもちろんのこと、行政、他の介護事業所、外部業者など応援要請が必要な場合の連絡先も一覧にします
必要な物資をあらかじめ整理、準備しておくこと
自然災害・感染症、どちらについても多くの物品が必要となりますが、緊急事態になってからでは確保が困難です。必要な物資は平時から準備しておきます
上記を組織で共有すること
緊急時のフローが決まっているにも関わらず、それが職員に周知されていなければ運用できません。日ごろから組織で共有し、職員間で共通認識を持っておきます
定期的に見直し、必要に応じて研修・訓練を行うこと
BCPは作って終わりではありません。その後の運用も含めて、定期的な見直しが必要です。
介護事業所のアクシデントに対する二つの視点
BCPを策定するために、最初に論点となるのが現状の把握です。
【事業影響度分析】
自法人や関係機関への影響度はどの程度か
【リスクの分析・評価】
自法人の事業を中断させる可能性が高いものは何か
どのようなリスクが存在し、優先的に対応すべき事象は何かを見極め、BCPを策定する必要があります。
BCPに盛り込む必要がある要点
自然災害
主に「総論」「平常時の対応」「緊急時の対応」「他施設との連携」「地域との連携」等の視点について明記しておく必要があります。
感染対策
主に「平時対応」「感染疑い者の発生」「初動対応」「検査」「感染拡大防止体制」等の視点について、明記しておく必要があります。
新型コロナウィルスが猛威を振るう中で、介護事業所の皆様も日々リスクに直面されています。
新型コロナウィルスだけでなく、その対策を可視化してBCP内に落とし込み、それに基づいて研修・教育に活かしていきます。
整備に向けたスケジュール
法人内でBCPを整備していく上でのスケジュール例は以下の通りです。
フェーズ(期間) | 内容 |
---|---|
現状分析(0.5か月間) | 法人内における、既存の業務継続計画(に類するもの)が、求められるBCPに対して、どこまで対応できているのかを把握します。書類のみで必要な事項を把握するのではなく、現場責任者クラスにヒアリングを行うなど、定性的な情報もあわせて把握することが重要です。 |
想定される リスクの分析(1か月間) | 自然災害、感染症において想定されるリスクを洗い出します。特に自然災害については、地理的特徴による影響に個別性があるため、地震、津波、土砂災害等、過去の災害も踏まえ、想定されるリスクを洗い出しておくことが重要です。 |
事業への影響度 シミュレーション(2か月間) | 上記のリスクが事業にどの程度影響を及ぼすかをシミュレーションします。シミュレーションにおいては、可能な限り程度によって複数のパターンに場合分けをし、どのテーマにおいても影響度の大きいパターンを想定しておく必要があります。 |
ケース別 対応方法の検討(1か月間) | 日常業務の中で、優先的に対応すべき業務を決定し、必要な対応方法を洗い出します。業務のチェックリスト等を用いることで、スムーズに準備することが可能です。また対応するために必要なリソースが揃っているかも確認しましょう。 |
BCPの可視化(1か月間) | 決定事項をカテゴリごとにBCPとして可視化していきます。可視化のイメージが湧きづらい場合、厚生労働省の参考フォームを活用することで、枠組みに沿った可視化が可能です。70%の完成度に到達した段階で関係者間でシェアし、方向性を確認するすり合わせを設けましょう。 |
運用ルールの決定(0.5か月間) | 教育・訓練のスケジュール、実施方法や担当者など、運用に際してのルール決めを行います。 |
まとめ
BCP(事業継続計画)は、緊急時に事業の継続・早期復旧を図るうえで不可欠なものといえます。
義務化されたとはいえ、前回の介護報酬改定から3年間の経過措置期間は設けられているため、他に優先的に取り組むことがある場合に、後回しになりやすいテーマでもあります。
一方で、より本質的で法人に適したBCPを策定するうえでは、十分に時間をかけて関係者同士ディスカッションしていくことが重要で、実質的には早期対応が重要です。
是非、利用者や家族の信用を維持し、地域社会にも安心をもたらすための取り組みとして、
本記事の内容を参考に進めていただければ幸いです。
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